新リース会計基準への対応に、不安を感じていませんか?この新しい基準の核心は、これまで貸借対照表(B/S)に載らなかったコピー機や社用車などのオペレーティングリースも、原則として「使用権資産」と「リース負債」として計上(オンバランス化)する点にあります。これは、投資家が企業の財務実態をより正確に比較・判断できるよう、国際的な会計基準(IFRS)との整合性を図るために導入されました。本記事を読めば、新基準の概要から旧基準との決定的な違い、財務諸表や経営指標に与える具体的な影響、そして経理実務で押さえるべき仕訳例や適用が免除される例外規定まで、全体像を5分で理解し、明日からの業務に活かすことができます。
新リース会計基準とは 概要と導入の背景
2023年5月、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リースに関する会計基準」の改正案を公表し、日本の会計ルールに大きな変革が訪れようとしています。この改正は、特にこれまで費用処理が可能だった「オペレーティング・リース」の会計処理を大きく変更するもので、多くの企業の財務諸表や業務プロセスに影響を与えることが予想されます。本章では、新リース会計基準の基本的な概要と、なぜ今このタイミングで導入されるのか、その背景と適用時期について分かりやすく解説します。
そもそもリース会計基準とは
リース会計基準とは、企業がコピー機や社用車、不動産といった資産をリース契約で利用する際の会計処理方法を定めたルールのことです。リース取引は、資産を借りて使用料を支払うという点で賃貸借契約と似ていますが、その契約内容によっては実質的に資産を購入した(ファイナンス)と見なされるケースもあります。
このような取引の実態を財務諸表に正しく反映させ、投資家や金融機関などの利害関係者が企業の財政状態や経営成績を適切に判断できるようにするために、リース会計基準は存在します。具体的には、どのようなリース契約を資産・負債として計上し、どのような契約を費用として処理するのか、その判断基準や具体的な計算方法を定めています。
なぜ今?新リース会計基準が導入された理由
今回の会計基準改正の最大の理由は、国際的な会計基準との整合性(コンバージェンス)を図るためです。すでに海外では、国際財務報告基準(IFRS)において「IFRS第16号」、米国会計基準において「ASC 842」が導入されており、原則としてすべてのリースを資産・負債として計上する「オンバランス」処理が義務付けられています。
従来の日本の会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、後者は賃貸借処理として費用計上するだけで、貸借対照表(B/S)に資産や負債として計上する必要がありませんでした。しかし、この「オフバランス」の取り扱いは、投資家が企業の隠れた債務(将来のリース料支払義務)を把握しづらいという問題点を抱えていました。例えば、航空会社や小売業のように大量の航空機や店舗をオペレーティング・リースで賄っている企業では、財務諸表に現れない巨額の支払義務が存在する可能性があったのです。
新リース会計基準は、この問題を解消し、財務諸表の透明性と企業間の比較可能性を高めることを目的としています。これにより、グローバルに事業を展開する企業や海外投資家にとって、日本の企業の財務状況がより理解しやすくなるのです。
いつから適用?新リース会計基準の適用時期
新リース会計基準の適用時期は、企業の規模や任意適用の選択によって異なります。自社がいつから対応する必要があるのか、正確に把握しておくことが極めて重要です。現時点で公表されている公開草案に基づくと、適用時期は以下の通りです。
| 適用区分 | 適用開始時期 |
|---|---|
| 原則適用(強制適用) | 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
| 早期適用 | 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
上場企業やその子会社・関連会社、会計監査人設置会社である大会社などが原則適用の対象となります。適用開始までにはまだ時間がありますが、リース契約の網羅的な把握や会計処理システムの改修など、準備には相応の期間を要します。経理部門や関連部署は、早期に情報収集と準備計画の策定に着手することが求められます。
旧基準との決定的な違い オペレーティングリースのオンバランス化
新リース会計基準を理解する上で最も重要なポイントは、旧基準との会計処理の違いです。特に、これまで費用処理のみで済んでいた「オペレーティングリース」の取り扱いが根本的に変わります。ここでは、その決定的な違いである「オンバランス化」について、旧基準と比較しながら詳しく解説します。
これまでのリース取引の会計処理
旧リース会計基準では、リース取引を「ファイナンスリース取引」と「オペレーティングリース取引」の2つに分類し、それぞれ異なる会計処理を行っていました。
ファイナンスリース取引
ファイナンスリース取引とは、実質的にリース物件を分割払いで購入したとみなされる取引のことです。具体的には、「解約不能」であり、かつ「フルペイアウト(リース料総額が物件の購入価額とほぼ同等)」という要件を満たすものが該当します。この取引は、通常の売買取引と同様に扱われるため、借手はリース物件を資産として、未払いのリース料総額を負債として貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス)する必要がありました。
オペレーティングリース取引
一方、オペレーティングリース取引は、ファイナンスリース取引以外のすべてのリース取引を指します。これは一般的な「賃貸借取引」と同様の扱いとなり、会計処理は非常にシンプルでした。借手は支払ったリース料を、地代家賃や賃借料などの勘定科目で費用として計上するだけでよく、貸借対照表(B/S)に資産や負債を計上する必要はありませんでした(オフバランス)。多くの企業が利用するコピー機のリースや社用車のカーリースなどが、これに該当するケースが多く見られました。
新リース会計基準ですべてのリースが原則資産計上に
新リース会計基準における最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースを含め、原則としてすべてのリース取引を資産・負債として計上(オンバランス化)することです。これにより、旧基準におけるファイナンスリースとオペレーティングリースの区分は、借手側の会計処理において実質的になくなります。
具体的には、借手はリース契約によって得られる「資産を使用する権利」を「使用権資産」として資産計上し、将来支払う義務のあるリース料総額を「リース負債」として負債計上します。この変更は、企業の財務実態をより正確に財務諸表へ反映させることを目的としており、国際的な会計基準(IFRS第16号など)との整合性を図るためのものです。
新旧基準の違いをまとめると、以下のようになります。
| 項目 | 旧リース会計基準 | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| リース区分の判定 | ファイナンスリースとオペレーティングリースに分類 | 原則としてすべてのリースを単一のモデルで処理(区別は不要) |
| ファイナンスリースの処理 | 資産・負債を計上(オンバランス) | 使用権資産・リース負債を計上(オンバランス) |
| オペレーティングリースの処理 | 費用処理のみ(オフバランス) | 使用権資産・リース負債を計上(オンバランス) |
貸手側の会計処理に大きな変更はあるか
借手側に大きな影響を与える一方で、リース物件を貸す側(貸手)の会計処理については、旧基準の考え方が基本的に維持され、大きな変更はありません。貸手は引き続き、リース取引をファイナンスリースとオペレーティングリースに分類し、それぞれに応じた会計処理を行います。したがって、今回の新リース会計基準の導入は、主にリースを利用する「借手側」の企業が対応すべき課題であると理解しておきましょう。
新リース会計基準が会社に与える3つの影響
新リース会計基準の導入は、単なる会計処理の変更にとどまらず、企業の財務諸表や経営指標、さらには業務プロセスにまで多岐にわたる影響を及ぼします。特に、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースがオンバランス化される影響は甚大です。ここでは、企業が受ける具体的な3つの影響について詳しく解説します。
財務諸表への影響 資産と負債の増加
新基準の最も大きな影響は、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の表示が大きく変わる点です。これまで費用として処理するだけでよかったオペレーティングリースが、資産と負債として計上されるようになります。
貸借対照表(B/S)の変化
旧基準では、オペレーティングリースはB/Sに計上されませんでした。しかし、新基準では、借手は原則としてすべてのリース契約について、資産として「使用権資産」、負債として「リース負債」をB/Sに計上しなければなりません。これにより、これまでB/Sに現れていなかったリース資産が可視化されます。
この変更により、特にコピー機やPC、社用車などをオペレーティングリースで多数利用している企業では、総資産と総負債が同時に増加します。結果として、自己資本比率が低下し、負債比率が上昇するなど、財務体質の見た目が大きく変わる可能性があります。
| 会計基準 | 資産の部 | 負債の部 | 主な影響 |
|---|---|---|---|
| 旧基準 | 計上なし(オフバランス) | 計上なし(オフバランス) | 総資産が実態より小さく見える |
| 新基準 | 「使用権資産」を計上 | 「リース負債」を計上 | 総資産と総負債が同時に増加する |
損益計算書(P/L)の変化
損益計算書(P/L)における費用の計上方法も変わります。旧基準のオペレーティングリースでは、支払リース料を定額で費用計上していました。一方、新基準では、リース資産の「減価償却費」と、リース負債にかかる「支払利息」をそれぞれ費用として計上します。
この結果、費用の内訳が変更され、特にリース期間の初期には支払利息が大きくなるため、費用が前倒しで計上される傾向があります。一方で、支払リース料は営業費用(販管費)でしたが、支払利息は営業外費用となるため、営業利益やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)といった利益指標が改善する効果も見込めます。
| 会計基準 | 計上される費用項目 | 費用の特徴 |
|---|---|---|
| 旧基準 | 支払リース料(主に販管費) | リース期間中、原則として定額 |
| 新基準 | 減価償却費(主に販管費) + 支払利息(営業外費用) | リース期間の初期に費用が厚くなる傾向 |
経営指標(ROAなど)への影響
財務諸表の変動は、企業の健全性や収益性を測る経営指標にも直接的な影響を与えます。総資産が増加するため、総資産を分母とする指標は特に注意が必要です。
代表的な指標として、ROA(総資産利益率)が挙げられます。ROAは「当期純利益 ÷ 総資産」で計算されるため、利益額が変わらなくても分母である総資産が増加することで、ROAは低下します。同様に、自己資本比率も低下し、負債比率は上昇する傾向にあります。これらの指標は、金融機関の融資審査や格付け、株主からの評価にも用いられるため、なぜ指標が変動したのかをステークホルダーに対して適切に説明する責任が生じます。
経理部門の業務プロセスへの影響
新リース会計基準への対応は、経理部門の実務に大きな負担を強いることになります。これまで契約書を保管し、支払いを管理するだけでよかったオペレーティングリースについても、複雑な会計処理が必要となるためです。
具体的には、以下のような業務が発生します。
- リース契約の網羅的な把握:社内に点在するすべてのリース契約を洗い出し、契約期間、リース料、割引率といった詳細情報を一元管理する必要がある。
- 使用権資産とリース負債の計算:個々の契約ごとに、リース料総額の現在価値を計算し、使用権資産とリース負債の計上額を算定する。
- 決算業務の複雑化:減価償却費と支払利息の計算、リース負債の返済スケジュールの管理、使用権資産の減損テストなど、決算時の作業が大幅に増加する。
これらの業務に対応するため、リース資産管理システムの導入や、Excelなどを用いた管理台帳の精緻化、業務フローの見直しが不可欠となります。早期に準備を進めなければ、決算業務が滞るリスクも考えられます。
実務担当者が押さえるべき会計処理と例外規定
新リース会計基準の導入により、経理の実務は大きく変わります。特に、これまで費用処理で済んでいたオペレーティングリースが原則として資産計上されるため、会計処理のプロセスを根本から見直す必要があります。ここでは、実務担当者が必ず押さえておくべき具体的な仕訳例と、業務負担を軽減するための例外規定について詳しく解説します。
新リース会計基準における具体的な仕訳例
新基準の核心は、借手側がすべてのリース(一部の例外を除く)について、「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表(B/S)に計上する点です。これにより、リース契約の実態が財務諸表に正しく反映されることになります。具体的な仕訳の流れをリース開始時とリース料支払時に分けて見ていきましょう。
使用権資産とリース負債の計上
リース期間が始まった時点で、借手は将来支払うリース料総額の現在価値を算出し、同額を「使用権資産」(資産)と「リース負債」(負債)として計上します。これは、リース資産を使用する権利を資産として認識し、将来の支払義務を負債として認識するという考え方に基づいています。
例えば、リース料総額の現在価値が300万円であるPCのリース契約を開始した場合、仕訳は以下のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 3,000,000 | リース負債 | 3,000,000 |
この仕訳により、これまでB/Sに計上されていなかったオペレーティングリースも資産と負債の両建てで計上され、企業の財政状態がより明確に示されることになります。
株式会社プロシップ事例で見るリース料支払時の仕訳
リース料を支払った際の会計処理も、旧基準とは異なります。支払ったリース料は、リース負債の元本返済部分と支払利息(金融費用)に分けて処理する必要があります。また、計上した使用権資産は、リース期間にわたって減価償却を行います。
リース資産管理システム大手の株式会社プロシップの製品をリースしたと仮定し、年間リース料65万円(うち元本返済60万円、支払利息5万円)を支払った場合の仕訳例を見てみましょう。また、使用権資産の減価償却費が年間60万円発生するとします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| リース負債 | 600,000 | 現金預金 | 650,000 |
| 支払利息 | 50,000 | ||
| 減価償却費 | 600,000 | 使用権資産 | 600,000 |
このように、支払リース料を費用として一括計上するのではなく、元本と利息に分解し、さらに減価償却費を計上するという、より複雑な会計処理が求められます。
適用が免除される簡便的な取り扱い
原則としてすべてのリースがオンバランス化されますが、実務上の重要性が乏しい取引については、会計処理の負担を軽減するための例外規定が設けられています。この簡便的な取り扱いを適用できるかどうかで、経理部門の業務負荷は大きく変わるため、条件を正しく理解しておくことが重要です。
短期リースとは
短期リースとは、リース期間がリース開始日時点で12ヶ月以内であるリースを指します。ただし、借手が割安購入選択権(購入オプション)を有しており、その行使が合理的に確実である場合は短期リースには該当しません。
短期リースに該当する場合、使用権資産とリース負債を計上せず、旧基準のオペレーティングリースと同様に、支払うリース料を期間按分して費用(賃借料など)として計上することができます。
少額リースとは
少額リースとは、リース対象となる資産そのものの価値が低いリースを指します。具体的には、新品で購入した場合の価額が少額である資産のリースが該当します。
日本の会計基準では明確な金額基準は定められていませんが、国際的な会計基準(IFRS)では5,000米ドル以下がひとつの目安とされています。この基準を参考に、企業が重要性の観点から独自の基準を設定することが可能です。少額リースに該当する場合も、短期リースと同様に、支払リース料を費用として計上する簡便的な会計処理が認められます。
まとめ
本記事では、新リース会計基準の概要から旧基準との違い、企業に与える影響までを網羅的に解説しました。新リース会計基準が導入された最大の理由は、国際的な会計基準(IFRS)との整合性を図り、投資家が企業の財務状況をより正確に比較できるようにするためです。
この新基準における最も重要な変更点は、これまでオフバランス処理が可能だった「オペレーティングリース」も、原則として貸借対照表(B/S)に「使用権資産」および「リース負債」として計上(オンバランス化)される点です。これにより、多くの企業で総資産と負債が同時に増加し、自己資本比率や総資産利益率(ROA)といった経営指標が悪化する可能性があります。
実務においては、経理部門の業務プロセスに大きな影響が及びます。社内のすべてのリース契約を洗い出し、新基準に沿った会計処理を行う必要があるためです。ただし、「短期リース」や「少額リース」といった簡便的な取り扱いも認められているため、自社のリース契約がどの区分に該当するのかを正確に把握することが重要になります。
新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更に留まりません。リース契約の管理体制の見直しや、財務戦略への影響の検討など、全社的な取り組みが求められます。本記事を参考に、早期の準備と適切な対応を進めていきましょう。
